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こばなし

  • ヒトは肉食動物か、草食動物なのか

    糖尿病や肥満があると、「野菜をたくさん食べなさい」とよく言われます。そう言われると、ヒトはもともと草食動物であって、洋食を好むようになったことが病気の原因なのか、と思ったりします。また、自分は肉が好きなので、当然のごとく肉食動物だと思う人もいるでしょう。

     

    草食動物の代表は牛です。牛は、一日もぐもぐと草を食べていますが、それだけであんなに大きくなり、あれほどの乳と肉を生み出すのです。不思議だと思いませんか、草を食べたら乳になり肉になるとは。どのようなトリックが隠されているのでしょうか。

     

    牛には通常の胃のほかに食道が変化してできた袋が3つあり、第一胃、第二胃、第三胃、第四胃とよばれます。人間の胃に相当するのは第四胃です。第一胃は大きく、180kgもあります。中には、細菌がびっしりと生息しています。胃の中では、人には消化できない草の繊維成分のセルロースを細菌が分解してくれます。それはさらに細菌によって発酵され、酢酸や酪酸という短鎖脂肪酸になります。ヒトではブドウ糖がエネルギー源ですが、牛では細菌の作り出した短鎖脂肪酸をエネルギー源として利用します。細菌は30分ごとに分裂増殖するので、どんどん増えていき、第一胃からあふれ出た細菌は腸に入り、消化吸収されて牛の蛋白源となります。

     

    つまり牛は、短鎖脂肪酸と細菌を栄養源にして大きくなり、乳や肉を作り出しているのです。牛肉はまさに、細菌を原料に作られたものなのです。ヤギ、ヒツジ、鹿などの草食動物も細菌のつまった胃を持っています。ヒトはどうでしょうか。牛のような細菌のつま

    った胃は持っていません。草の繊維成分のセルロースを分解することもできません。なので、ヒトは草だけ食べては生きていけないのです。ですから、ヒトは草食動物とは言えません。

     

    しかし、ヒトにも草食動物としての痕跡はあります。一つは大腸の端っこにある虫垂とよばれるものです。これは小さな袋状のもので、よく「モウチョウ」と呼ばれる虫垂炎になる場所です。これは細菌袋の名残です。

     

    もう一つ、最近、とても注目を集めているのが腸内細菌です。ヒトの腸には100兆個を超える細菌が生息しています。これら腸内細菌の働きは重要で、私たちの健康に大きな影響を与えることが分かっています。野菜をたくさん食べる人は、食後に血糖値が上がりにくいというのは、おそらく腸内細菌の働きによるものではないかと推測されます。というのは、良い腸内細菌の作り出す短鎖脂肪酸は、血糖値の上昇を抑えるように働くからです。

  • ヒトはどうやって肉食になったのか

    原始人の男たちが集団で狩りをする絵を見たことがあるでしょう。人類は弱い生き物でしたから、武器としての道具を使えるようになった男たちは、集団で狩りをしたと思われます。しかしそれ以前の、洞窟で暮らしていた私たちの祖先は、いったいどうやって食べ物を手に入れていたのでしょうか。ハイエナは、死んだ動物やライオンの食べ残しを食べます。ヒトもおそらくはそのようにしていたのではないでしょうか。猛獣が餌として動物をとらえて食べているのを、こっそりと見張っていて、すきを見て盗んで洞窟に持って帰って食べていたのではないでしょうか。ヒトは肉食だったのです。

     

    猛獣を見張ったり、追跡したりするには、相当の知恵が必要です。また、洞窟から来た道を間違えずに走って戻るためには、記憶力も必要です。ただ本能でできるとは思えません。つまり、知恵者としてのヒトだからこそなせる業なのです。

     

    このような仮説があります。ヒトが記憶をするのは座ってするよりも走りながらするほうが良いというのです。原始時代に走りながら猛獣を追跡し、獲物を奪って走って戻ってくる習慣から、走りながら考え、帰り道を覚えたことが、記憶は走ってすることに繋がっているのではないのだろうか、という推測です。面白い話です。

  • 栄養素としての肉について

    肉はタンパク質です。タンパク質だけで生きていけるでしょうか。三大栄養素とは、タンパク質、脂質、糖質です。実は、ヒトの体内で、タンパク質は脂質にも糖質にもなりますが、脂質や糖質はタンパク質にはなれません。糖質だけを食べていたのでは筋肉はつかないというわけです。必須アミノ酸という言葉を聞いたことがありますか。タンパク質はアミノ酸からできているのです。その数あるアミノ酸のうち、ヒトの体内で作ることができない8種類のアミノ酸を必須アミノ酸といい、食物から取らないといけません。とくにリジンが最も不足するアミノ酸で、リジンをとるためにウマやネズミは苦労をしています。ヒトも必須アミノ酸は必ずとらないといけないので、やはり肉をたべることが必要であったのです。

     

    しかし、原始人はいつでも肉が手に入るというわけにはいかなかったと思われます。そういうときには、植物の根っこや、果物、蛋白源としての虫なども食べていたはずです。いずれにしても飢餓との戦いこそ、何100万年にも及んで人類が生き延びるすべてでした。ごはんをたっぷり食べるということがないので、血糖値が上がって困るということもなかったはずです。つまり、血糖値は上がらないものであったはず。逆に、血糖値をどうやって上げるかが重大な問題であったはずです。では、インスリンとはいったい何のために存在したのでしょうか。

  • インスリンの働き

    みなさんはインスリンという言葉を耳にしたことがあるでしょう。それは血糖値を下げる「ホルモン」であると。血糖値とは、血液の中の「ブドウ糖」の濃度のことです。ホルモンは血液の中にあって、特定の細胞に作用し、体の状態を正常に維持してくれるものです。インスリンというホルモンは、膵臓で作られ、血液の中に分泌されます。そして、肝臓の細胞や脂肪細胞などに作用して、血糖値を下げる方向に調節します。このインスリンの働きが弱くなった病気が糖尿病です。

     

    私たち人類の祖先たちは、常に飢餓と戦ってきました。ですから、少しでも余分に食べることができたときには、それを体に蓄えておく仕組みがあります。それがみなさんの悩みの種である皮下脂肪・内臓脂肪というわけです。また、米やパン、芋、果物などを食べると血糖値が上昇します。

     

    血糖値が170 mg/dl以上になると、尿に糖が出ていってしまいます。もったいないので、余分な糖はグリコーゲンと呼ばれる塊になって、肝臓や筋肉に貯蔵されます。この余分な栄養分を脂肪やグリコーゲンに変えて蓄えるという仕事をしてくれるのがインスリンです。つまり、インスリンの本来の役割は、飢餓と戦うためにエネルギーを貯蔵することだったのです。

     

    インスリンは、余分に食べた分をすかさず貯蔵してくれるので、結果として血糖値は上がることがありません。インスリンをたくさん作りだす能力があれば、たくさん食べた分はすべて貯蔵され、その結果、どんどん太っていきます。ですから、肥満体の人を見ると、たくさんインスリンが出ているんだなあ、ということになります。

    インスリンを作り出す能力を超えて、つまり貯蔵能力を超えてたくさん食べてしまうと、どうなるでしょうか。2つのことが起こります。①血糖値が上昇する。②インスリン作る細胞が死んでいく。材料がたくさんあっても、作り手のインスリンが足りなくなり、食べた分だけ血糖値が上がることになります。さらに、インスリンを作り出す細胞はめいっぱい働かされるので、少しずつ過労死していきます。恐ろしいですね。

  • 生命の誕生

    生命の誕生は謎に包まれ、計り知れません。火星探査機が火星に着陸し、生命の起源の解明に近づくための試料を持ち帰ることが期待されていますが、果たして如何に。地球に生命が誕生する確率がどれくらいだと思いますか? プラモデルのばらばらの部品を手に取って机の上に放り投げた時、そこにプラモデルが組みあがっている、くらいの確率と言われています。

    それでも地球上に生命は誕生し、今、人類が存在しているのです。銀河系には地球と同じような惑星が少なくとも1000万個あると言われています。ですから、宇宙人はいます。

     

    地球は、宇宙の中の小さな銀河系の中にある、さらに小さな太陽系の中にあります。太陽ができたのが46憶年前、地球ができたのがその1憶年後、生命の誕生は40億年前とされています。つまり、人類が誕生するのには40億年がかかったのです。その道のりは、想像の域を越えています。

    一つ言えることは、生物の誕生・進化は、ことごとく地球表面の環境の変化に依存していたということです。さらに言うならば、水です。地球の表面が水、つまり海で覆われていたことが生命の誕生を可能にしました。

     

     

    原始地球では、雷による放電、太陽からの紫外線、火山活動による熱、加えて隕石落下による衝撃波などによって、アミノ酸や核酸などの生物に必要な材料が作られたと考えられます。それらは太古の海に溶け込み、海底に湧き上がるマグマの熱によって、最初の生命へと進化していったのでしょう。無から有が生じたわけではないにせよ、生命の誕生は奇跡というべきか、起こるべくして起こったことなのか、広い宇宙の小さな星のあまりにも不可思議なできごとに、驚愕せざるをえません。

  • 生物の進化

    生命の材料ができると、それらは膜で囲われた生命体、つまり細胞へと進化していきました。ラン藻は太陽からの紫外線が届かない海底で増え続け、葉緑体の光合成よって太陽のパワーと二酸化炭素からエネルギーを作り出し、酸素を放出しました。藻と言っても、肉眼では見えないていどのものに始まり、だんだんと大きくなり、多くなっていきました。ところが7億年前に地表の温度が低下し、全地球が凍りつく氷河時代が訪れました。

    地球がすべて厚さ1kmの氷で覆われスノーボール化したのです。しかし、生命体は海底で生き続け、地球の凍結が終わって、生命体の進化は加速され、大型化し、生物らしくなっていきました。6億年前のカンブリア紀には、肉眼で見える大きさの生物や、硬い骨格を持つ生物が出現するなど急激な進化が起こり、「カンブリア大爆発」と言われています。

     

    葉緑体を取り込んだ生物が光合成によって酸素を作り出した結果、地球の大気には酸素が充満してきました。そして、上空にはオゾン層ができ、有害な紫外線がブロックされることになり、陸は生物の住める場所になりました。まずは植物が、そして、3億6000万年前に脊椎動物が陸上に進出してきました。

    陸上の環境は多様性に富んでいて、生物は、数や種類を増やしていきました。この時代を古生代といいます。70cmもあるトンボや、体長2mの巨大ムカデがいたのもその頃です。「オゾン層」、これが今も、太陽の紫外線から私たちの命を守ってくれているのですが、愚かな現代人は、オゾン層を破壊し、自ら破滅の道を進んでいるようです。

     

    カンブリア紀に多様化し、海陸に多くの生物が繁栄した古生代ですが、終わりは突然にやってきました。2億5000万年前、海や陸に住んでいた生物が、いっせいに絶滅するという空前絶後の生物大絶滅が起こったのです。その原因は、今のシベリアに相当する所で、 超大規模な火山活動がたくさん起こったためです。地球の歴史から見るととても短い期間でしたが、100~200万年くらいの間に起こった大絶滅劇でした。

    その間、火山活動によって太陽光は遮断され、植物が死滅したことによる酸素欠乏状態が続きました。「プルームの冬」と呼ばれています。プルームとは地底の流動しているマグマで、それがキノコ状に地表に上がってきて巨大なエネルギーで大陸を動かほどのものを「スーパープルーム」と言います。

     

    このような生物の大絶滅劇は、地球上の大陸の動きと一致することが分かっています。9億年前の地球には「ロディニア」、6億年前には、「ゴンドワナ」と呼ばれる超大陸がありました。超大陸は、海洋プレートの動きによって主だった大陸が一つにくっついてできます。それは、スーパープルームによって長い時間をかけて分裂し、また1か所に集まり、3億年前には「パンゲア」と呼ばれる超大陸が形成され、2億年前には分裂していました。

    パンゲアでは、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパ、南極、オーストラリア、インドらがくっついていました。生物の大量絶滅は、超大陸が分裂するときに起こっています。ちなみに、現在から2億年後には、アメリカ、アジア、オーストラリアはくっついて一つの超大陸となるようです。それは「アメイジア」と名付けられています。

     

    「プルームの冬」で古生代の生物はほとんど死滅しましたが、すべてが死滅したわけではありませんでした。二枚貝やアンモナイトがかろうじて生き残りました。プルームの冬が過ぎ去り、絶滅のピークから1000万年たつと、古生代とは全く異なる生物群が現れました。今の地球上で見られる生物の基本構成は、この時期に決定づけられました。その後、地球は温暖化し、ご存じ「ジュラ紀」が訪れます。巨大爬虫類である恐竜の世界が訪れます。

     

    安定した気候は、生物の順調な発展をもたらしました。恐竜は大繁栄をし、地球上は恐竜だらけになりました。大気の酸素濃度は高くはなかったのですが、鳥と同じように気嚢というふいごのような仕組みを使って酸素を効率よく取り込むことができました。恐竜の歴史は、人類とは比較にならないほど長いもので、1億年以上地球上を支配していました。当時、日本はアジア大陸と陸続きであって、恐竜もたくさん住んでいました。しかし・・・6600万年前、突然に地球上から恐竜は消滅したのです。

     

    6600万年前、恐竜はなぜ突然に姿を消したのか? つい最近まで分からなかった謎でした。しかし、その原因が、巨大隕石が地球に落下したことであったことが分かりました。現在のメキシコのユカタン半島あたりに、直径10kmの小惑星が衝突し、惑星は数万℃の熱を発して蒸発し、100kmのクレーターを残し、巨大な地震と高さ300mの津波が生じました。

    そして、小惑星の衝突による煙やちりによって地球が覆われました。そのため、太陽光は届かなくなり、植物が死滅し、それを食べていた生物も死滅しました。海ではアンモナイトが絶滅し、陸では恐竜が絶滅しました。このとき、1億年以上続いた恐竜の支配が終わりました。

     

    小惑星が地球に衝突したことで、地球上の海や陸の生物はことごとく死滅してしまいました。しかし、生き残った生物もありました。それまで恐竜の脅威から逃れるために夜行性になっていた小さなネズミなどの小型の哺乳類がとって変わることになります。恐竜が絶滅した後を新生代と呼びます。

     

    哺乳類が新生代の主役となりました。サルやヒトのことを霊長類と呼びます。「絶滅の冬」のあとには、最初の霊長類であるプルガトリウスもいました。小さなネズミのような姿であったようです。恐竜が絶滅した後の新生代には、哺乳類が繁栄することになるのですが、その道のりはたいへん険しいものであったはずです。恐竜のいた中生代には無かった氷河期が、繰り返しあったからです。

     

    たとえ小惑星の衝突が無かったとしても、恐竜は氷河期を生き延びることはできなかったでしょう。地球上の気温が上昇すると、哺乳類は、恐竜の足元を隠れるように生きていた小さなものからだんだんと大型化していきました。4800万年前に現れた最初のサルとされるノタルクタスは、ネコくらいの大きさであったようです。そして氷河期が繰り返されているうちに、生息域もアフリカの方へ移動していきました。

  • 人類の進化

    数百万年前には、猿ともヒトとも言えない猿人・原人がアフリカに現れました。200万年前には立って歩くようになり、アフリカで進化し、世界に広がっていきました。10万年くらい前までヨーロッパに生息していたネアンデルタール人もそうです。しかし、これらの人類はことごとく絶滅します。代わって、20万年くらい前にアフリカで誕生した現生人類―ホモサピエンスーが、今の私たちの祖先です。

    もともとアフリカの森の木の上で生きていた私たちの祖先の祖先は、地上に降りて、ついには2本の脚で歩くようになりました。このときが人類の歴史の始まりです。地上に降りて二足で歩く、そして森からサバンナに出て広い大地を見渡す。なんということでしょう。本能なのか勇気なのか、それは知る由もありません。しかし、ニ足歩行によって生き方は大きく変わらざるを得なくなりました。

     

    四つ足哺乳類は、子宮が背骨にぶら下がっています。背骨は一番頑丈なので、赤ちゃんを子宮の中で大きく育ててもいいのです。四つ足動物の赤ちゃんは生まれてすぐに立ち上がり、お乳を飲み始めますが、ヒトではそうはいきません。ニ足歩行のヒトの子宮は背骨にぶら下がるのではなく、骨盤の上に乗っているだけです。だから大きな赤ちゃんを子宮の中で育てることはできません。

     

    ヒトの赤ちゃんがかわいいのは、四つ足動物と違って生まれたときから体に脂肪がついていて、ぽっちゃりしているからです。ヒトでは四つ足動物のように、生まれてすぐに立ち上がって自分でお乳を飲むことはできません。なので、生まれる前にあらかじめエネルギー源となる脂肪をまとっているのです。また、お乳も3-4歳くらいまで、しっかり歯が生えるまでは飲んでいたはずです。

    ニ足では早く走ることができないので、食べ物を得るためには知恵が必要になります。そのため脳が発達し、頭が大きくなり、その頭を支えることができたのはニ足で立ち上がっていたからです。脳の発達はヒトがヒトたるゆえんですから、これこそがニ足歩行の最も重要な効果であったのです。脳の発達に伴い、言語によるコミュニケーションも発達していきました。

     

    ヒトは動物界では弱い生き物でしたから、集団で力を合わせて生きていかねばなりませんでした。集団生活をすることによって、それまでのハイエナ生活ではなく狩りによって食べ物を得ることができるようになりました。男たちは協力して狩りをして獲物を持ち帰る、女たちは育児をするという役割分担ができました。さて、果たして集団は仲良くできたのでしょうか。

     

    動物界で集団が成立するにはいろんなパターンがあります。一般的なのは、最も強い雄がボスとして集団に君臨し、ハーレムを作ることです。雄のボスだけが集団の雌と交尾してより強い子孫を残すことができるというものです。サルをはじめ、集団で生きる多くの動物に見られます。ヒトは一夫一婦制を選択したようです。男どうしがいつも喧嘩していたのでは集団生活はできないからでしょう。

     

    こうしてヒトはサバンナで生きる術を得ることができました。そして数百年前、ついに故郷アフリカから出て行ったのです。アラビア半島を通り、ある者はカスピ海のそばのコーカサスからヨーロッパに向かい白人となり、コーカソイドと呼ばれます。ある者は東のアジアのモンゴルあたりに向かい、モンゴロイドと呼ばれます。アフリカに残ったのはネグロイド、東南アジア・オーストラリアに行った者はオーストラロイドと呼ばれます。愛すべき私たちの先祖は、まぎれもなくモンゴロイドでしょう。

  • 日本人とは

    アフリカから出てヨーロッパ方面に移動した人たちは、気候も良く、森や川があり、食物にも比較的恵まれていたはずです。しかし、モンゴルあたりにたどり着いた私たちの祖先は、草原があるばかりで食物を得るのが難しい環境で生きていかねばなりませんでした。飢えとの戦いの中で、いかに少量の食べ物で生きていくかが重要であったのです。そのために基礎代謝をなるべく小さくして、少ない食物でも生きてい行ける体質に変わっていきました。省エネです。

     

    私たちの体は目に見えない大きさの細胞が集ってできています。それぞれの細胞にはちゃんと役割分担があることで体が作られ、生きています。そういった役付けは、ゲノムと呼ばれるシナリオに書かれています。

    ゲノムは父親から1セット、母親から1セットもらって子に伝わります。そのゲノムの極々微細な違いが、個々の人の違いを作ります。背が高い低いとか、髪の毛の質とか、薬が合う合わないとか、血液型とかです。1卵生の双子はまったく同じゲノムを持っているので同じ姿かたちで体質も同じになります。

     

    飢えと戦うモンゴロイドは省エネ型と言いましたが、余計なエネルギーを使わなくてすむようにゲノムの微細な変化によって倹約する体質を持ったのです。その結果、少量の食べ物で生きていける飢えに強い体質となりました。私たちの祖先が獲得したこの体質は、今に受け継がれています。つまり、私たちの体は省エネ型です。たくさん食べ続けることは想定外で、飢えていてちょうどよい体質なのです。

     

    当時は、シベリアとアラスカは陸続きでしたから、モンゴロイドたちは楽園を求めてアメリカ大陸に渡り、エスキモーになりました。寒すぎたのでしょうか、さらに南下してインディアンとなりました。実はもっと複雑な問題なのですが、極端に簡単に言うとこうなります。そして、共通の体質として省エネ型なのです。余分に食べると、それをインスリンの働きによって脂肪に変えて蓄えるので、現代のように食べ物が豊富にあると、どんどん太っていきます(こばなし④ インスリンの働き)。たいへん!

     

    同じ日本人でも、体質の違いによって太りやすい人、太りにくい人がいます。糖尿病になり易い人、ならない人がいます。これらの体質も、微細なゲノムの違いによるものと考えられます。もちろん、その人の食生活の違いにもよります。糖尿病については、概して言えば、体質7割、食生活3割でしょうか。ですから、糖尿病を制するためには、食生活だけではなく自分の体質も考慮に入れないとなりません。

     

    さて、日本には縄文人と弥生人がいたという話を聞いたことがあるでしょう。縄文人は狩猟で、弥生人は農耕でと習った記憶があります。縄文人も農耕らしいことはやっていたようです。1万年前の縄文人たちは、日本列島の地域による気候の違いによって食文化が異なっていたようです。北海道ではアザラシなどの海獣の捕獲もされていたし、東北北部では栗を主食としていたようです。関東から西ではシカやイノシシ、貝類など海産物が多く、九州では漁労がさかんでした。縄文人のゲノムは北海道のアイヌ、沖縄の琉球人に受け継がれています。

     

    3000年前ころから弥生時代と呼ばれますが、九州から始まった稲作が中心となった時代です。だからといって縄文人が弥生人に入れ替わったわけではないらしく、そのへんのことはよく説明できていないようです。しかし、2021年秋に興味深い説が発表されました。言語を解析することによって民族の動きを知るという方法で、日本語のルーツを調べたのです。その結果、日本語は、中国の北東部にある瀋陽あたりの民族によって農耕と共にもたらされ、縄文語と徐々に入れ替わっていったとする説です。これまでの物的証拠に基づく考古学とは異なり、言語を解析する手段はとても魅力的ですね。弥生人も瀋陽の民族なのかも知れず、そうなると漢民族と日本人は極めて近いということになりそうです。

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